福島地方裁判所 平成10年(わ)125号
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官福島弘、弁護人平雄一各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社新企を罰金六〇〇〇万円に、被告人阿部徹を懲役一年六か月にそれぞれ処する。
被告人阿部徹に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社新企は、福島県郡山市並木五丁目一五番七号に本店を置き、広告代理店業等を目的とする資本金二〇〇〇万円(平成七年二月一七日以前の資本金は一〇三〇万円)の株式会社であり、被告人阿部徹は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人阿部は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、発送料収益を除外し、架空外注加工費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成五年四月一日から同六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五四九六万五二一二円であったにもかかわらず、同年五月三一日、同市堂前町二〇番一一号所在の所轄郡山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一〇八〇万四〇〇七円であり、これに対する法人税額が二八一万二五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五六八七万二八〇〇円と右申告税額との差額五四〇六万〇三〇〇円を免れ
第二 平成六年四月一日から同七年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九一四七万一二四〇円であったにもかかわらず、同年五月三一日、右郡山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四一七万四八三五円であり、これに対する法人税額が八三万一二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七〇七〇万四一〇〇円と右申告税額との差額六九八七万二九〇〇円を免れ
第三 平成七年四月一日から同八年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五一二九万九二四一円であったにもかかわらず、同年五月三一日、右郡山税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が二八七万四七二五円であり、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五五五八万五〇〇〇円を免れ、
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人株式会社新企代表者及び被告人阿部徹の当公判廷における供述
一 被告人阿部徹の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の被告人阿部徹に対する各質問てん末書
一 博多ヒサ子、江馬成夫、清野純一、松田隆、伊藤敏夫の検察官に対する各供述調書、大蔵事務官作成の各調査書、各脱税額計算書
一 検察事務官作成の電話聴取書
一 押収してある各法人税確定申告書(平成一〇年押第一五号の1、2、3)
(法令の適用)
一 被告人らの所為 平成一〇年法律第二四号による改正前の法人税法一五九条一項
一 被告人株式会社新企の所為 平成一〇年法律第二四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条二項
一 被告人阿部について刑種の選択 懲役刑
一 併合罪加重 被告人阿部につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重
被告人株式会社新企につき刑法四五条前段、四八条二項
一 被告人阿部につき執行猶予 刑法二五条一項
(量刑)
一 被告会社は資本金二〇〇〇万円の広告代理店業を営む株式会社で、被告人阿部は同会社の代表取締役であるところ、本件は被告人阿部が率先して行なった、被告会社のダイレクトメールの印刷、封入及び発送の取引等にかかる法人税ほ脱事犯であり、そのほ脱所得金額は、四億八二七五万六八五一円、ほ脱税額は、一億七九五一万八二〇〇円であって、極めて高額であり、そのほ脱率も、平成六年三月期が九五パーセント、平成七年三月が七三パーセント、平成八年三月期が一〇〇パーセントであって、極めて高率である。
二 被告人阿部は、被告会社の業界における成長に伴い法人税をほ脱して裏資金を留保することによって、被告会社の資金力をつけ、売上金回収不能による危険に備え、また、得意先から仕事を受注するための接待交際費に充てたいなどの意図をもって本件犯行に及んだものであり、そしてその態様を見ても所得を秘匿して納税義務を免れるため、得意先から受注したダイレクトメールの一部を廃棄して発送料収益を上げたり、また、被告会社との取引量が多く脱税への協力を拒否し難い外注先をして架空外注加工費の請求書及び領収証を発行させるなどの不正行為をしており、総じて本件は悪質な脱税事犯であって被告人らの刑事責任は重大であると言わなければならない。
三 しかしながら、被告人阿部は自己の非を全面的に認め、本件の全貌の解明にも協力したこと、本件脱税額全部を納付済みであるほか、本税以外の地方税等及び延滞税、重加算税等の支払いのため、今後長期間継続して多額の支払い義務を負うことになったこと等諸般の事情を考慮し、被告人阿部徹については懲役一年六か月に処するけれども、三年間その刑の執行を猶予することとする。ただ被告会社については脱税事犯取締りの趣旨に照らし高額の罰金刑が科せられるべきであって、求刑どおりの罰金六〇〇〇万円を相当と判断した。
(裁判官 穴澤成巳)